車内の歌

車内の歌

学生の頃、まだ地下鉄はなかった。
よくバスに乗って、街のあちこちを巡っていた。

まだ誰も、携帯ばかり見ている時代ではなかった。
短い道のりのあいだ、車内放送だけが、やさしく流れていた。

四月。陽射しは明るく、やわらかい。

バスは大通りをゆっくり走り、車内には、あの頃流行っていた歌が流れている。

すぐそばには、長い髪の女の子が立っていた。窓から入る風に、髪がそっと揺れる。

道ゆく人の足取りも、どこかゆるやかだった。

プラタナスの綿毛が、街のあちこちをふわりと漂ってゆく。

夏休みに入ると、街も少しずつ静かになった。

午後の陽射しはまぶしく、人々は木陰を選ぶように歩いている。

車内放送から、聞き覚えのある古い歌が流れてきた。

車内はいつのまにか静まり返り、誰も話さない。

揺れる車内は、まるで温かな小舟のように、みんなを乗せて、江南の水郷をゆっくり漂ってゆく。